信樹はあっさりと変われた。
俺はきっと変われない。
人間そんなうまく変われるくらいうまくできていないから。
俺は変わらない。
ただ、過ぎていく毎日をぼーっと眺めているだけでいい。
「さっき、お前に無理とか言ったけどさ、イチも好きな奴くらいつくれよ」
そんなの無理、無謀、ありえない。
「マジになれるくらい好きな奴をさ!」
つくれるんなら、どうやってつくればいい?
俺は人に感情を出すことが苦手だ。
うまく感情を誰かに伝えることができない。
…所詮自分がかわいいんだから、周りなんかどうでもいいけど。
周りなんか…
ただの飾りだ。
俺は、空気でも構わない。
「いらねえよ、部活もあるしな」
「お前サッカーにそんな情熱注いでたか?」
「俺は真面目に部活出てますけど?お前と違ってな」
信樹は口を膨らまして拗ねてしまった。
部活では、俺も信樹も別に真面目にしているわけじゃない。
ただ、素質かそれとも、まぐれかで、レギュラーになった。
入りたくて入ったわけでもないし、こんなところまでいくとは
思ってもみなかった。
もとは信樹に強制的に入らされただけ。
調子のってサッカー部はモテるからっていいだして。
「俺だって真面目だし!俺のがうまいし」
「今度の大会で負けたら引退じゃん」
「ま、サッカーも飽きてきたし丁度よくね?」
「そーだな…」
そんな会話をしていると、一人の女が俺の前にやってきた。
「後藤!アンタ昨日日直だったでしょ」
腕を組んで奇声をあげた女は、確か同じクラスの桐生優季。
…そういえば、昨日は日直だった気がする。
「それが何か?」
「うっわ、何その態度!ムカつく!ちょっと藤本も見てないで言ってあげてよ」
「優季、とりあえず落ち着け!」
桐生は続けて喋り出した。
耳がキーンと痛む。
「なんの罪もないこのあたしが、あんたのせいで押しつけられて全てやってあげたのよ?あーだるいったらありゃしない!だーから女にすぐ振られるんよ!」
桐生は息続くのかってくらい言葉を喋っていた。
昨日は女に振られてはたかれて、そんなことがなければ日誌は多分書いていた。
桐生はきっと運がなかったんだ。


