マネージャーも、ハルカも、随分アキヒロに交渉はしたらしい。
でも、プロでやるつもりはないの一点張りで、結局決裂した。

らしい。

らしい、というのは、それをあたしが受け入れる勇気がなかったから。
交渉は、その三者で行われたから、あたしの目の前に彼が現れることはなかった。
その報告を直接聞くのは怖くて、その話になると知らん顔をして、雑誌や携帯に逃げていた。
そして、周りで話している声を切れ切れに聞いて、「噂だ」と自分を騙そうとした。

クライアントもレコード会社も、そのことで契約を取り消すとは言わなかった。
そして、数人のボーカリスト候補を挙げて来た。
あたし以外の3人は、プロフィールやデモ音源で、その中からオーディションをする3人ほどを熱心に選んでいた。

「ほんと、うちらボーカル運ないね~」

ハルカは自嘲気味に笑って、プロフィール写真を見比べている。
確かに、結成以来、メンバーチェンジがあったのはボーカルだけだ。