「はい、ここだよ。おいで、ゆりあ先輩」
「ここ!?な、なんか大人の雰囲気がバリバリ伝わってくるよ!私、こんなところ入ったら場違いじゃない!?」
翔平くんが連れてきてくれた場所は、ビリヤードとダーツが出来るバーだった。
私の話をそっちのけに心配しないで、なんて言いながら私の手を引いてくれる。
しっかりとリードしてくれるんだ。
キレイな女の人の格好をしているのに、私には頼れる男の人にしか見えないよ。
「ほら、あそこにいるよ。今井先輩」
翔平くんの指さす向こうには、ビリヤード台の前に立つ今井先輩がいた。
キューを持って、まさにブレイクショットを行おうとしているところ。
やっぱりカッコイイだけあって、キューを構えるその姿は様になっているなぁと思う。
「似合ってるね」
「・・・そうだね。ほら、行っておいで?ビリヤード教えてくださいって言えば、教えてくれるよきっと」
翔平くんに背中をポンっと押される。
「無理だよ。翔平くん」
ちがう、違うんだよ翔平くん。
私分かっちゃったの。
「大丈夫だよ!俺が可愛くしてあげるって言ったでしょ?今のゆりあ先輩なら今井先輩だけじゃない、色んな男の人がゆりあ先輩のことをいいなって思うよ。だから、ほら行っておいで?」
翔平くんに手を引かれて、今井先輩の元へと近づいていく。
「すいませ~ん!この子、ビリヤード初めてなので教えていただけませんかぁ?」
翔平くんが今井先輩に声をかけて、今井先輩に視線をうつした。
「キレイな子だね?僕でよかったら、教えるよ。手取り足取りね?」
ああ、今井先輩が私に優しくしてくれてる。
「じゃあ、頑張ってね。ゆりあ先輩」
翔平くんが小声でそう言って、笑顔で離れていった。
痛いよ、翔平くん。
翔平くんが私に向けてくれた笑顔が、痛いよ。
そうだよね。
可愛くなって今井先輩に振り向いてもらうはずだったんだから、翔平くんが私を送り出すのは当たり前なんだよね。
それなのに、私は行かないでって思ってる。
翔平くん、私をおいていかないでよ・・・。


