6年目の愛してる



「はい、ここだよ。おいで、ゆりあ先輩」

「ここ!?な、なんか大人の雰囲気がバリバリ伝わってくるよ!私、こんなところ入ったら場違いじゃない!?」



翔平くんが連れてきてくれた場所は、ビリヤードとダーツが出来るバーだった。


私の話をそっちのけに心配しないで、なんて言いながら私の手を引いてくれる。


しっかりとリードしてくれるんだ。


キレイな女の人の格好をしているのに、私には頼れる男の人にしか見えないよ。



「ほら、あそこにいるよ。今井先輩」



翔平くんの指さす向こうには、ビリヤード台の前に立つ今井先輩がいた。


キューを持って、まさにブレイクショットを行おうとしているところ。


やっぱりカッコイイだけあって、キューを構えるその姿は様になっているなぁと思う。




「似合ってるね」


「・・・そうだね。ほら、行っておいで?ビリヤード教えてくださいって言えば、教えてくれるよきっと」



翔平くんに背中をポンっと押される。



「無理だよ。翔平くん」



ちがう、違うんだよ翔平くん。


私分かっちゃったの。





「大丈夫だよ!俺が可愛くしてあげるって言ったでしょ?今のゆりあ先輩なら今井先輩だけじゃない、色んな男の人がゆりあ先輩のことをいいなって思うよ。だから、ほら行っておいで?」




翔平くんに手を引かれて、今井先輩の元へと近づいていく。





「すいませ~ん!この子、ビリヤード初めてなので教えていただけませんかぁ?」




翔平くんが今井先輩に声をかけて、今井先輩に視線をうつした。




「キレイな子だね?僕でよかったら、教えるよ。手取り足取りね?」




ああ、今井先輩が私に優しくしてくれてる。




「じゃあ、頑張ってね。ゆりあ先輩」




翔平くんが小声でそう言って、笑顔で離れていった。


痛いよ、翔平くん。


翔平くんが私に向けてくれた笑顔が、痛いよ。


そうだよね。


可愛くなって今井先輩に振り向いてもらうはずだったんだから、翔平くんが私を送り出すのは当たり前なんだよね。


それなのに、私は行かないでって思ってる。


翔平くん、私をおいていかないでよ・・・。