紗絵の実家を出て、車で川にやってきた。
付き合いたての頃からよく二人で川にきていたから、なんだか今は川に行くのが正解な気がした。
喧嘩したり、お互い苦しくてどうしようもないときに川にきて、話し合う。
夜の川の暗さと、静けさと、水音が、頭を冷静にさせてくれる気がするんだ。
「紗絵・・・ごめんな?あんな風に両親に詰め寄っちゃって」
紗絵の右手を握った。
「ううん、いいの。ありがとう。コウくんがいなかったら私ずっと言えなかったよ。辛かったことも、感謝の言葉も。もう家族とは縁を切るつもりだったからこれで良かったの。カッコいいコウくんもみれたし」
紗絵がもう片方の手を俺の手に重ねて俺の手を包んだ。
そして、ニコッと笑ってくれる。
紗絵の実家を奪ってしまった、罪悪感。
それでも、もう紗絵が両親に傷つけられることはないという安心感。
紗絵の笑顔でこれでよかったんだと思うことが出来た。
「でも、ごめん」
「今度は何に謝ってるの?」
「俺、今一文無し・・・ごめん!これから紗絵の人生を背負ってくってときに・・!暫く貧乏な生活になっちゃうけど、俺の傍にいてくれる?」
紗絵の両親に渡したお金は、俺が高校の時から貯め続けてきたお金で。
二十四歳の俺は給料もそんな高くないわけで。
その貯金全部はたいてでも、紗絵を手放したくなかったんだ。
「コウくんってバカだよね?私のために、コツコツ貯めてきた貯金手放しちゃってさ。それでも私を選んでくれたコウくんの傍を、離れられるわけないじゃない・・・。家族に愛されるって今まではよく分からなかったけど、コウくんとなら幸せな家庭を描けるよ?私、これから先コウくんとじゃなきゃダメだよ・・・」


