彼の最初の声を聞いたのは
それから

2日後。

またいつもの駅で
いつもの時間に

彼は乗ってきた。



この日は
外は雨で
いつもきらきら輝いている海は
まるで
墨汁を落とした水のように
黒く荒れ狂っていた。


台風が近づいてるらしい。


彼は
びしょ濡れだった。

傘はどうしたのか

それは分からなかったけど
とにかく
びしょ濡れだった。





彼は
濡れている服で
自分の顔を拭く。

意味ないし・・・。


鞄からキャラクターのプリントされたタオルを出し

そっと彼に差し出した。





「他の人に迷惑だし
風邪引くと思うので・・・・。」




彼は一瞬躊躇した。
でも
私の顔を見ると

「どーも」

と言ってタオルを受け取った。


その時の声が
とても
心地の良い
綺麗な声で


私の心は

彼に
持って行かれてしまった。