携帯の時刻は9時。
ライブハウスから出てくる人がいなくなった。
中に入ると、ごみが落ちてたり、香水のにおいがしたり
人の気配がまだ、かすかに残っていた。
「すいません。もう終わりました・・・。」
受け付けのお姉さんが私の顔を見て
顔色を変えた。
「裕子ちゃん?」
その名前は、どこまで私を縛りつけるのだろう。
「違うよ、麻生さん。心だよ。」
彼が、いた。
黒のタンクトップで、ライブ終わりな彼が。
「ご、ごめんなさい。あまりにもそっくりで。」
麻生さんと呼ばれた人は
ほんとうに驚いてる。
「ごめん、心。麻生さんは、裕子の親友だったんだ。」
過去形。
裕子さんはこの世にはもういない。
「麻生さん。」
「はい?」
うまく笑えたらいいけど。
「私と裕子さんがいくら似ていても」
麻生さんは、困ったようにこっちを見る。
笑えているかな。
「性格は真逆ですよ。」

