宏一さんは視線を床にやった。
確かにそう。
好きって気持ちは、
気づけば、その人に会いたくなって
声が聞きたくなって
ほんとうに気づいた時に
なってるものだから。
それが、たとえ実の姉でも。
「辛くないか?」
「え?」
宏一さんはタバコを床にこすりつける。
火が、ジュッと音を立てて消えた。
「泣きたい時に我慢すると、おかしくなるぞ。」
温かい手が、そっと頭に乗る。
今まで、押さえつけていた感情が溢れ出る。
「私、辛いっっ。」
宏一さんの手は温かくて。
宏一さんの腕はたくましかった。
「女の子はこうでないとな。」
優しく抱きしめてくれる宏一さんは
優しく私に話しかけてくれた。
ライブハウスには、私の泣き声と
宏一さんの低音の声だけが
響いていた。

