心泥棒!!

はるさんは
切れた唇を気にしながら、宏一さんに
連れられて、救護室に行った。


自分でもびっくりするぐらい
今の状況が、頭の中で整理されていく。

瀬田さんが好きなのは
私に似た"裕子"という、瀬田さんのお姉さん。

だから、あの人の笑顔も愛も
全て私に向けられたものじゃない。
これからも、いままでも。


「うっわ~、シリアス・・・。」

この間テレビでやってた昼ドラみたい。

「大丈夫?」
「ひぇっ。」

急に声をかけられて、変な声が出た。

「あ、は、はい。大丈夫です。
さっきは、ありがとうございました。」

ルキさんは、にこっと笑って
何も言わずに私の頬を両手ではさむ。

「良かった。」

無口だし、無表情だけど
笑うとものすごく可愛いし、優しそうな雰囲気を出す。

ああ、たぶん宏一さんはここに惚れたのか・・・・。
複雑。

「意外、冷静?」

「自分でも、びっくりするぐらい冷静です。」

ははは、と笑う声が震えていた。

「ルキ、はる頼めるか?」

「うん。」

宏一さんは、そう言うと私の前に
ゆっくり立つ。

「悪かったな、でも事実だ。」

気悪そうに言葉を選ぶ宏一さん。

「いえ、大丈夫です。」

「裕子さんは、裕斗より2歳年上で、おとなしくて
笑顔で、幸せ振りまいてるような人だった。」

過去形・・・。

「裕斗が、高2のとき、あいつちょっとやらかして
警察沙汰になったんだよ。」

宏一さんはタバコに火をつけて続けた。

「そんとき、唯一味方だったのが裕子さん。
最初は、一番信用できる家族。
だったのかもしれない。
でも、気づけば好きになってなもんは、
もうどうにもできんしなあ。」