【一】 よく晴れた初夏の、非番の日だった。 物頭の相模惣右衛門の屋敷に呼ばれた時、隼人は薄々何を言われるか予測がついていた。 「加那を嫁にもらってはくれまいか」 案の定。 惣右衛門は、幼い頃より隼人を厄介者としてしか映してこなかった双眸に いつものごとくに苦々しげな色を湛えたまま、 そのように切り出した。 隼人が黙っていると、 ここ数年で頭に白いものが混じり始め、急激に老け込んだ中年の男は、 懐柔する調子になった。