かげろうの殺しかた

自分でも無意識に体が動き、気がつけば小太刀を抜き放ち、斬りかかっていた。

力任せに振り下ろした一撃は、伝九郎が手にした刀によってあっさり打ち払われた。

「小太刀術か。なるほど、このような屋内では小回りが利いて都合が良いな」

伝九郎は薄ら笑いを浮かべたまま隼人の武器を見て、さして気にした風もなく呟いて、
片足を引き、脇構えから斬りかかってきた。

円士郎が語ったように、何の躊躇もない打ち込みだった。

隼人は行灯の明かりの中でその攻撃を見極めてぎりぎりで避けた。


──と思ったが、肩口を切っ先がかすめ、鋭い痛みが走った。


かわしきれなかったことに驚きながら、敵を見据えると、
ほう、と蜃蛟の伝九郎の口から感嘆とも嘲りともつかぬ声が漏れた。


「儂の剣を刀で受けずに体でかわしたのはお前が最初だ」


何が面白いのか男は少年のように笑みを浮かべ、再び斬りかかってきた。

低い位置から逆袈裟に斬り上げるような剣撃が来る。


隼人はそれを紙一重でかわそうとし──やはり避けきれず、相手の刀が胸を浅く薙ぐ。

反撃に転じて斬りつけた小太刀は、伝九郎に弾かれた。


狭い屋内で飛び下がって相手から距離をとり、隼人は肩で息をつきながら相手の武器を見た。
汗なのか、血なのか、着物の下で腹を生暖かい液体が流れ落ちていった。

伝九郎はまた脇構えをとり、刀身は隠されてよく見えない。


避けたと思ったにも関わらず、自分が相手の攻撃を見極めきれなかったことに驚愕を覚えた。

まるで蜃気楼のように、

刀身の存在していない場所に幻の刃があって斬りつけてくるような感覚だった。


獲物が長いのか──。


それにしても、己が目で見てこうもかわしきれないことは不可解だった。