かげろうの殺しかた

食い入るようにその刺青から目を離せなくなった隼人を見て、蜃蛟の伝九郎は低い笑いに喉を震わせた。

「おぬしも、かなり使うな」

ボソリと不気味にこぼして、彼は隼人に向かって迷いなく刀を抜き放った。


上役とは言え、すっかり砕けた口調で言葉を交わすようになっていた年下の御曹司に「おい」と隼人は声をかけた。

「こういう場合は、どうなる?」

「何がだ?」

「斬り捨てて何か問題があるか?」

円士郎は尋常ならざる隼人の様子に気圧されたように一瞬間を空けて、いいや、斬って構わないと告げた。

この場合の彼の言葉に何か権限があるかは不明だったが、ともかく上役の許可は得た。

自分に構わず妹の奪還に向かうように円士郎には告げて、


「円士郎様」と、やや改まった口調で隼人は呼びかけた。


「もしも俺が死んだら、相模家の加那という女に、すまぬと伝えてくれ」


隼人の言葉から何かを察したのか、御曹司は何も聞き返さず、承知したと頷いた。


「死んだら仇を討ってくれ、とは頼まなくて良いのか?」

揶揄するように伝九郎がそんなことを言ってきた。

斬れ、斬れ、斬れ。
鋼の塊が怨嗟の叫びを上げ、隼人は己の心もこの冷たい鉄の刃物のように温度を失っていくのを感じながら、必要ないと目の前の浪人に答えた。

「例え死んでも、貴様はこの俺がその前に必ず斬って死ぬ」

隼人の返答を聞いた伝九郎は目を丸くし、楽しくて堪らないという様子で無邪気に哄笑を上げた。