かげろうの殺しかた

かつてわずか十二の歳で、一晩のうちに六人もの盗賊をたった一人で斬り殺した天童。

それこそが、この少女を城下の有名人にしている理由である。その事件がもとで、剣術指南役を務める鏡神流の達人結城晴蔵の目に留まり、結城家の養女になったという話だ。


ある意味、幼少期の異常体験とも呼べるこんな過去を持つ少女が、蜃蛟の伝九郎は自分と似ているという。

蜃蛟の伝九郎は相当人を斬ってきたに違いないと言った円士郎の言葉が蘇った。

隼人よりも、あの結城円士郎よりも、

この少女は憎むべき隼人の敵と近い場所に立っている。


そう思ったら、

この勝負を受けなければ伝九郎に勝てないような気がした。


己は人を斬ったことがない。
ただの一度も、真剣での斬り合いをしたことがない。

もしもこの娘との真剣での勝負に、相手に傷一つ負わせることなく勝利することができたならば──蜃蛟の伝九郎にも勝てる気がした。


そうして、

梅雨の雨が降りしきる河原の花菖蒲の中で、

隼人はこの剣の申し子の少女と、互いの首に巻いた髪結い紐を切ったほうが勝ちという、一歩間違えば命を奪いかねない狂気の沙汰とも呼ぶべき危険な真剣勝負を始めたのだった。