かげろうの殺しかた

見知った人間が、浅瀬の中に立ってこちらを向いている。

袴に二本差しという、一見しただけでは小柄な武家の少年と見間違う格好だが、
つややかな黒髪を一まとめにした、どこか儚げなこの色白の美童。

正体は男装に身を包んだ女である。

「おつるぎ様」

と、隼人は城下でも有名なその娘の名を口にした。

結城のおつるぎ様と言えば、女の身でありながら男顔負けの剣の腕を見込まれ、武芸の家である結城家に養女として迎え入れられたという有名人だった。

隼人も結城家の道場に出入りするようになってから何度か手合わせしているが、結城家の道場の門弟の中で唯一あの円士郎に並ぶ腕の持ち主で、とても十六、七の娘とは思えぬ鋭い剣を使う。

留玖というのが彼女の本当の名だが、その剣才は広く城下に知れ渡り、剣術小町ならぬおつるぎ様の名で呼ばれている。


そして、結城円士郎が許されぬ恋慕の情を抱く義妹こそが、このおつるぎ様であった。


思い詰めた表情と泣きはらした目で、こんな雨の日に傘も差さず、川の中に立っている名家の息女を見て、隼人は慌てた。

どう見ても、入水自殺を図ろうしているところだった。

練習のために抜きかけていた小太刀を大急ぎで鞘に納め、隼人は足早に浅瀬へと入って、どこかぼうっとした瞳でこちらを見ていた少女を川から引き上げにかかった。