かげろうの殺しかた

数日後のある日、
いつものように結城家の道場で円士郎の稽古につき合わされた後、

隼人は年若い上役に、人を斬ったことがあるのかと、かねてより抱き続けてきた問いをぶつけた。

御曹司は、女たちが騒ぐ切れ長の目でちらと隼人を窺い見たあと、

「ある」と何でもないことのように答えた。


やはり、と隼人は納得した。


この若者が有していて、他の門下生たちや隼人にはない決定的な違い。

剣を握る円士郎の中に潜むギラギラしたものを見て、もしかすると……と隼人が想像していたことであった。


唐突にそんな質問を投げかけた隼人の様子から何かを感じ取ったのか、


「蜃蛟の伝九郎を斬るつもりなのか」


円士郎は忌まわしい名前を口にして尋ねてきた。

あの居店で蜃蛟の伝九郎の名を聞いてより今日まで、度重なるやりとりの中でその名が話題に上るたび隼人が滲ませていた剣呑な空気は、
この御曹司にも、隼人が伝九郎に対して抱いている昏い感情を気づかせたようだった。


隼人が何も答えないでいると、

「奴はできるぞ」

と、円士郎はやや剣のある目をさらに鋭くして、記憶の中の場面を思い浮かべているように宙を睨みながら言った。

「俺も一度だけ、刃を合わせたが──」

あれは相当人を斬ってきたに違いないと、円士郎はそう言った。それほどによどみがなく、ためらいがなく、慣れた動きでかかってきたのだという。