からっぽな街

「せーの!」
『いってきまーす!』
全員で、力いっぱい大きな声で、外に向かって叫ぶ。思い切り手を振って、ふざけている子もいる。
バスは、動き出す。保護者の群れから離れ、蒸し暑い池袋の街の中を前進する。
自分達の家から離れ、長野県の山の中へ向かう。テレビも、ゲームも、携帯電話も通じない、不便な場所へと向かってゆく。
いったい私たちにどんなことが待っているのか。どんなことが起きるのか。
期待に胸膨らませ、近くに座っている子ども達に、必死に話しかけた。
「おはよう。ゆんです。名前はなんていうの?」
「じょろ。」
小四くらいに見える眼鏡の男の子は、名札を見せながら答えた。
「じょろ。おもしろいね。昨日は、眠れた?」
「うん。」
緊張した子どもは、口数が少なかった。顔もこわばっていたし、疑り深い目をしていた。 
人見知りをするのは、まるで、普段の自分みたい。こういう風に、見えるのか。と、一つ知る。
テツも、ハナも山中さんも、このときになると、もう関係なかった。子ども達と仲良くなることに、必死だった。
しばらく車を走らせたところで、マイクを持ったトックが、バスレクを始めた。