【長編】唇に噛みついて



でも……!


「須藤!!」


歩く速さについていく事が難しくなったあたしは、大声で須藤の名前を呼ぶ。
その声に、須藤は立ち止まった。


「いい加減に離して」


掴まれている腕を外して、あたしは須藤を見上げる。
すると須藤はあたしを不機嫌そうに見ていた。


っな……。


「何よ?」


「何、あいつ」


「え?」


あいつって……。


須藤と言葉に一瞬キョトンとするけど、何となく今までの話の流れで、品川の事を言っている事に気づいた。


「別に……ただの会社の人よ」


「ふーん」


って、何よ!!その反応!
あんたが聞いてきた事なのに、何でそんな興味なさそうなのよ?


ムー……。


須藤を見上げて睨んでいると、須藤もあたしを睨み返してくる。
長身で整った顔に睨まれると、妙に迫力があってあたしは少し怯む。
あたしは何だか恥ずかしくなって、須藤から少し視線を逸らした。


「何そんな怒ってるのよ……」


あたしはため息をついて、息を吐くようにそう呟くと、須藤は少し冷たく言い放った。


「別に……。誰だってあんな事言われたらムカつくだろ」


まぁ……。
そうなんだけど。
うん。そうだよね。
あたしだってあんな事言われたらムカつくわ。
キレるね。……そうだよね。


「何か……ごめんね」