【長編】唇に噛みついて



どうやらオレを待っていたらしい。


そう思うと、嬉しくて舞い上がりそうだった。
でも舞い上がる事はない。
だって……。
オレに会って話す事は1つしかないから。
きーがオレに言う言葉は1つだけ。



“ごめんなさい”



それを聞くのは、とても怖い。
でも逃げる事はできない。


分かっていながらオレは笑顔を向けてきーに言った。


「きー、どうしたの?」


「うん……りっちゃんに、話があって」


そう言ってきーはオレを見上げる。


……話、か。


一瞬顔を曇らせたけど、それをわざと笑顔に変えて頷いた。


「分かった……。じゃぁ、ここじゃなんだし。どっか行こうか」


そう言うと、きーは頷いた。


その時風が……。
オレ達の間を吹き抜けていく。
その風はオレの背中を押すように……。
でもオレの気持ちを表しているように、切なく揺れていた。