その姿は紛れもない零の姿で、あたしはもうりっちゃんの声なんて耳に届いていなかった。
そして、会いたかったその人の姿に、思わず涙が溢れそうになる。
でも……。
冷たい視線。
無表情。
そんな威圧感も感じる零は、そっとあたしから視線を逸らすと、背を向けて歩き出す。
あ……行っちゃう!!!
寂しく去って行こうとする零の背中を追いかけようと、1歩踏み出した瞬間。
りっちゃんの手があたしの腕を掴んでそれを拒んだ。
「待って……!」
掴まれた腕に視線を向けて、慌ててりっちゃんへ視線を上げる。
すると眉を下げたりっちゃんがあたしを見下ろしていた。
「お願いっ!りっちゃん!あたしっ……行かなきゃいけないの!!」
零に伝えたい事があるの。
零に聞いてほしい事があるの。
零に聞きたい事があるの。
零に……聞かなきゃいけない事があるの。
「……きー」
「お願い!離して!」
あたしはあたしの腕を掴むりっちゃんの手を何とか振り解くと、りっちゃんの顔を見ずに走り出した。
りっちゃんが悲しそうな顔であたしの背中を見ている事も知らずに。
まだ……。
そんなに遠くに行っていない筈。
あたしは見失ってしまった背中を捜しながら走ると、少し先に零の後ろ姿を見つけた。
その後ろ姿目掛けて走る。
そして、零の腕を掴んだ。
「待って!零!」
少しあたしの瞳に溜まる涙で、少しぼやけた零を見上げてあたしは口を開いた。
「あたし……零に言わなきゃいけない事があるのっ」
「あいつの事?」
「……え?」
すぐに返してくる零の言葉にあたしは、キョトンとする。

