【長編】唇に噛みついて



マンションに着き、あたしは自分の家の前に立つと、ゆっくりとドアノブに手をかける。
そしてドアを開く。
あたしは少しかかとが痛むヒールを脱いでいると、リビングからヒョコッと零が顔を出した。


「あ、きーちゃん。おかえり」


「……ただいま」


こんな挨拶……。
同棲してるみたいじゃん。照
って!
あたしは何考えてるのよ!
きゃあああぁぁ!!


「……ぃ」


でももし零と住んでたら……。
一緒にご飯作ったり、食べたり。
一緒に寝たり……。


「……ぉい」


でもでも!
零はまだ高校生だし。
そんな事考えるのは早いよ。
あたしってばせっかち!!


「おいっ」


「え?」


ハッと我に返って、間抜けな声と顔で零に視線を向けると、眉間に皺を寄せる零が視界に入る。
目が合った瞬間零は、ゆっくりと口を開いた。


「俺の事シカトするなんていい度胸してんじゃん」


「え!?」


ニヤッと微笑みながらあたしを見下ろして零は言う。


「何百面相してんの?」


ひゃ、百面相!?


「真っ赤になったり、アタフタしたり……さっきのきーちゃん面白かった」


そう言って笑いを堪えている。


あたし……。
そんな変な顔してたのかな。
だとしたら、めっちゃ恥ずかしいっ!!