【長編】唇に噛みついて



仕事がスムーズに終わり、遅刻して怒られた事さえ忘れて、あたしは鼻歌混じりに帰り道を歩いてた。
いつもなら真っ暗な道は、夕日でオレンジ色に輝いている。
いつもと違う帰り道を歩いていると、丁度オシャレな喫茶店の前で声をかけられた。


「あれ?きー!」


「え?」


後ろからかけられた声にキョトンとしながら振り返る。
すると笑顔で手を振っているりっちゃんが目に止まった。


「あ、りっちゃん」


あたしは足を止めて手を振り返すと、りっちゃんはゆっくりとあたしに歩み寄ってあたしの目の前で立ち止まった。
そしてあたしを見下ろすと、りっちゃんは微笑んだ。


「今、帰り?」


「うん。そうだよ」


頷いてみせると、あたしはりっちゃんを見上げた。


「りっちゃんは?今日休みなの?」


そう聞いてみると、りっちゃんはコクリと頷いた。


「うん、そっ。昨日の振り替え休日でオレも休みー♪」


満面の笑みを浮かべながら大きくピースしてみせるりっちゃん。
その姿を見てあたしは口を尖らせた。


「いいなぁ……。振り替え休日は高校生だけじゃなくて、先生もなのかぁ」


そう言ってりっちゃんを見上げると、りっちゃんはニコッと笑った。
そして舌をぺロッと出す。


「いいだろー」


「零といい、りっちゃんといい。休みなんてずるい」


ボソッと呟くと、りっちゃんは右の眉を少しスッと上げる。


「零……って須藤の事?」


その言葉にあたしはキョトンとしながらりっちゃんを見上げた。


「うん、そうだけど?」