それと同時に零はあたしを軽々持ち上げる。
ふわっと地面から離れる感覚に、思わず零の首に腕を回すと零は何も言わずにあたしを自分の膝の上に乗せた。
程よく筋肉のついた長い腕があたしの腰に回ってて。
零の頭があたしの肩に乗せられてて。
背中にピタッと零の胸がくっついてて。
あたしの顔に体中の熱が集中したみたいに熱くなった。
密着している事で緊張してしまい固まっているあたしを見下ろして、零はフッと笑った。
「きーちゃん……緊張してる?」
そう言って腰に回っていた手をあたしの唇へと移す。
そして黙り込んでいるあたし唇をなぞるようにして口を開いた。
「だって、ドキドキしてるよ」
「っ……うっさい」
あたしの全てを見透かしたようなその瞳に見つめられる事が恥ずかしくて真っ赤になりながらあたしは俯く。
余裕な微笑みであたしを見下ろして。
年下のくせに上から目線で。
強い瞳であたしを逃げられなくする……。
あたしはもう……この人の虜なんだ。
ふと真寿美ちゃんの顔が頭を過ぎって、あたしはゆっくり零の方に振り返ると零の首に腕を回して抱きついた。
「……きーちゃん?」
突然抱きついた事に驚いたのか、少し零の声が違って聞こえた。
今日見た零の見た事のない表情。
他の子とは違う真寿美ちゃんへの態度。
真寿美ちゃんはあたしの知らない零を知ってるのかもしれない。
あたしより零の事を知ってるかもしれない。
真寿美ちゃんと零がどんな関係なのかは知らない。
だって……あたしは高校生じゃないし。
真寿美ちゃんと違って零といつでもいられる訳じゃないから。
あたしの思い過ごしかもしれないけど。
真寿美ちゃんはもしかしたら零を好きなのかもしれない。
それでも……あたしは……。
零が好き。
大好きなの。
零以外考えられないくらいに、誰よりも大切な人なの。
やっと見つけた大切な人……。
絶対に誰にも譲るもんか。
簡単に離してたまるもんか。

