【長編】唇に噛みついて



それから数時間後。
あたしは須藤に連れられて、マンションへ向かっていた。


「須藤の家族……みんないい人だったね」


「もういいだろ」


いつまでも須藤の家族の事を話していると、須藤は怪訝な顔でそう言った。
黙って歩いていると、マンションにあっという間についてしまって、いよいよ別れの時間。


エレベーターに2人で乗り込むと、重い沈黙が2人を包んだ。


う……何か息が詰まるな。
何か話さないと。
そうだ!


「ねぇ、須藤?」


「ん?」


「今日さ……ホントにごめんね?」


「何が?」


何がって……。
それは……。


「ほら、誕生日だって知らなかったし。その、プレゼントもあげられなかったし」


俯きがちに言うと、須藤はゆっくりとあたしの頭を撫でる。
そして顎をスッと取ると、あたしは上を見上げた。
すると須藤は意地悪な笑みを浮かべた。


「だったらさ……。きーちゃんをちょうだいよ」


「え?」


体中の熱がかぁっと上がる気がした。


「な、何言ってんの?……冗談やめて」


そう言って顔を背けると、須藤は無理矢理顔を上げさせる。
そしてニヤッと笑った。


「俺はいつでも本気」


耳元で優しく囁いて、あたしをそっと抱き寄せる。
ゆっくりと壁に押し付けてあたしを見下ろした。


「そんなプレゼント……あげられる訳」