【長編】唇に噛みついて



そう思っていると、椎くんはまた明るい顔に戻って口を開いた。


「ごめんね?零くん。嬉しくってつい……」


おどけた表情は、さっきの豹変振りを忘れさせるほど。


もしかして……。
椎くんって、二重人格?
小悪魔系?
危険な性格は……須藤に似てるのかしら。


そう……思った。
するとゆっくりと立派な扉が開いた。


「あら?零来てたの?」


綺麗な高いソプラノの声。
綺麗なスタイル抜群の女の人。
……モデルみたい。
何か、櫂さんと椎くんに似てる。
……お姉さんかな?


思わず見惚れていると、椎くんは満面の笑みで口を開いた。


「お母さん聞いて!零くんが、彼女連れてきたんだよ!」


その言葉を聞いてあたしは目を見開く。


……お母さん!?
嘘。あたしと変わらないくらいの年だと思ってた。


あまりに若すぎる女の人がお母さんであると知って、あたしは驚いて言葉を失った。
するとお母さんは、あたしに視線を向けた。


「あら、零の……」


そう言ってゆっくりとあたしの方へ近づいてくる。
そして優しく微笑んだ。


「こんにちは。よく来てくれたわね。……お名前は、何ていうの?」


うわぁ……喋り方も丁寧。


「あ、あたしっ、柏原聖菜といいます」


深々と頭を下げると、お母さんは手元に手を添えて微笑んだ。


「そんなかしこまらなくていいのよ?そう、聖菜ちゃんっていうの」


綺麗過ぎる……。
完璧すぎるよ、この人。


見惚れていると、玄関の扉が開いた。


「あれ?みんなでどうしたんだ?」