【長編】唇に噛みついて



そう言って須藤は男の人を睨む。
すると男の人はニコッと笑った。


「逃げたら追いかけるに決まってるだろ?」


その言葉に須藤は大きなため息を落とした。
その姿を黙って見つめていると、パチッと男の人と目が合う。


……あ。


「あれ?その子は……?」


あたしを見つめてキョトンとする。
突然指を指されて、あたしはギョッとする。
すると須藤は庇うように、あたしの前に立った。


「関係ないだろ」


冷たく言い放つ須藤。
でも男の人は一切怯まない。


「あははっ。分かりやすっ。……彼女だろ?名前、何ていうの?」


須藤の背中に隠れていると、横からあたしを覗きこむように顔がひょこっと顔が出てきた。


「え?……あ、えっと……。柏原聖菜です」


戸惑いながらも答えると、男の人は何度も相づちを打った。


「へぇー。聖菜ちゃんっていうんだ」


そう言って見つめてくる。


175はあるであろう長身に、栗色の髪に幼い印象を与える整った顔立ち。
そんな彼に見つめられて、嫌でも息がつまる。


すると男の人は、ハッとしたように口を開いた。


「あ、おれの事誰だよって思ってるよね?」


……まぁ。
突然現れて、須藤に普通に話しかけてくるし。
あたしにも普通に話しかけてくるし。


「……はい」


あたしは小さい声で答えた。
するとニコッと笑って、男の人は口を開いた。


「おれは須藤櫂(スドウカイ)。よろしくね」