【長編】唇に噛みついて



何だそれ!?


眉を下げて考えていると、須藤はグイッとあたしの手を引っ張る。
そのせいで須藤との距離は近くなって、またまたドキッ。
思わず顔を赤くしてしまうけど、須藤はそんなあたしを気にせずにスタスタ歩いて行く。
その足取りはいつもより速くて、あたしはついていくのがやっと。


「ねぇ、須藤?」


速いんだけどって言おうとしたけど、須藤は返事もしなければ、こっちを向いてもくれない。


どうしたんだろう……。


いつもと違う様子の須藤を見て、疑問を抱き始める。
すると須藤はいきなり走り出した。


「うわっ!」


突然引っ張られてあたしはつまずきそうになる。
すると須藤は振り向いて慌ててあたしを支えてくれた。


「あ、ありがと」


腰に回る須藤の手から伝わる体温に、少し跳ね上がる心臓。
少しずつ近づいてくる須藤の顔から視線がそらせなくなる。


「聖菜……」


ギュッと須藤の胸に置いた手を握る。
そっと目を瞑ろうとした瞬間だった……。


「あ、いた!零!」


え?


「……っち」


突然近くで聞こえた大きな声に、目をパチッと開くと須藤は小さな舌打ちをした。
声の主が少しずつ近づいてくる気配がして、そちらに視線を向ける。
すると、笑顔の男の人が立っていた。


「やっと見つけた」


そう言って男の人は須藤を見つめている。


誰?


あたしはそんな疑問を須藤にぶつけようとした。
須藤を見上げると、須藤は男の人を見つめていかにも不機嫌そうな表情。


「追いかけてくんなっつたろ」