【長編】唇に噛みついて



はっきりいって、マニキュアなんて何年ぶりだろう。
でもさ?
やっぱり……そこにも気を配っちゃいたくなるんだよね。
恋ってすごい。


苦戦をしながらも、ようやくマニキュアを塗り終えてあたしはメイクポーチを取り出す。
メイクもいつもとは違う感じでして。
普段下ろしている髪もアップにして、巻いてみる。
浴衣も自分で着付けた。


お母さんに昔……教わっといてよかった。


準備をし終えて時計を見ると、4時50分。


もうすぐ来る!!


待ちきれないし、早く会いたいし。
そう思ってあたしは玄関の外で待つ事にした。


手鏡で確認して、それをそそくさしまうと緊張してくる。


メイク気合入りすぎちゃったかな、とか。
髪型変かな、とか。
浴衣似合わないかな、とか。
不安もいっぱいで胸が苦しくなる。


「……きーちゃん?」


「……あ」


突然かけられた声に顔を上げると、あたしは声が震えた。
だって……。


「須藤」


私服の須藤の姿を見て、ドキドキが止まらない。
ピンクのポロシャツに黒のネクタイをして、黒の細身のパンツ。


……格好よすぎる。


思わず見惚れてしまい、言葉が出ない。
すると、須藤はあたしにゆっくりと近づいて来た。
あたしの目の前まで来ると、立ち止まりニヤッと笑った。


「……似合うじゃん」


ドキ。
その言葉に心臓が跳ね上がる。


どうしよう……。
嬉しい。