【長編】唇に噛みついて



それって……。


「知ってて焦らしてたの!?」


『うん』


酷い……。


悲しくなって黙り込んでしまうと、笑いながら須藤は続ける。


『連絡くれるんじゃないかって期待してたんだけどねー』


そう言われてあたしはハッとする。


「別に!あたしだって待ってた訳じゃないし!ホントに明日は家で過ごそうと思ってただけだもん!」


真っ赤な顔で言う。
でも須藤はそれを相手にしてくれない。


『あ、そう。じゃ、俺友達と行こー』


「えっ……」


思わず声を出してしまう。
すると須藤が電話の向こうでクスクス笑っている。


『どうする?俺と行きたい?』


……っ。


「……意地悪」


どうせ……知ってるくせに。
全部、分かってるくせに。


真っ赤な顔であたしはムスッとする。
そんなあたしの声を聞いて須藤はクスッと再び笑う。


『行きたいです。って言ってみ?』


「う……行きたい、です」


ドキドキする。
ホントに意地悪だ。
でも……嫌じゃない。


すると須藤は優しい声で言った。


『よく言いました♪……じゃ、明日浴衣着ろよ?迎え行くから』


そう言って一方的に電話を切られてしまった。