◇ 『あの男とは…いったい誰のことを指しておられるのでしょう。全くわかりません。』 畳に広がった酒の冷たさで我に返った。 (――駄目だ。幾松様の顔が見れない。) きっと、疑いをかけるような目で私をみているのだろう。 幾度となく、この人に嘘をついた。 「では…何故こちらを見ないのか?え津…こちらを見なさい。」 幾松様の温かい手が私の頬に触れ、彼の瞳には私の姿を移していた。 *