私たちの奇妙な恋愛小説はこの時すでに始まっていたのかもしれない。

 私、工藤智美は35歳、中一の男の子、小三の男の子、小一の女の子、三人の母親で
かなり田舎に嫁いでしまった平々凡々な毎日を送る専業主婦だ。
いや、だった。
私の夫は工藤雅宏32歳、三つ年下の家庭を大事にする子ぼんのうな優しい夫だ。
主人は大手化学メーカーに勤め、三交代をしている。
早くから結婚したせいか家族のために頑張って働き、最年少で職長という管理監督職をまかされ、もう四年が経つ。
私たちは結婚して十年目。
最初の子供とは計算が合わない。
私が今の夫と出会った時は子持ちのバツイチだった。
 私は高校を卒業して高校の時つきあっていた一コ上の彼を追いかけ、彼と同じ会社に
就職し東京に出てきた。
同じ会社に就職したのはいいけれど大手スーパーストアだったため彼は神奈川の寮に、私は埼玉の寮で生活することになった。
二時間以上かけて電車で何度か会いに行ったが、そのとき彼にはもう同じお店に新しい彼女ができていた。
 私はそれなりに東京での生活をしていたけれど、長期休暇で実家に帰るたび、〝なんで私東京に帰らなきゃいけないんだろう″と涙を流していた。
三畳の寮生活に飽き飽きし、私は一人暮らしをするため、月曜から金曜日の朝8時から5時の事務仕事を終えたあと、金・土の夜9時から朝の6時までと日曜の夕方3時間、東十条のカラオケBOXでアルバイトをするようになった。
深夜のバイトだったので、周りはみんな男の子でハタチの私は結構モテた。
その中で一人の大学生と両想いになった。
が、なぜかうまくいかず、自信喪失していた私はしつこく好きだと言ってくる男とつき合うことにした。
それが前の夫、遼だ。