リハーサルでも何回か立ったのに、本番だと思うと足が震えてきたのだ。


 やばい、まだ始まってもないのに緊張してきた……。


 思わず一歩下がったとき、舞台裏の扉が開いた。ビクッ! と大げさなくらい驚いてしまう。


「柚子、早いな」


 そう言いながら入ってきたのは朗先生だった。


「う、裏方の癖で……。先生も早いね」

「一応顧問だぞ?」

 朗先生が軽く笑ったので、私も笑い返そうとしたけど上手く笑えない。それを見た先生が怪訝そうな顔をした。


「何だ、もう緊張し始めたか?」

「だって、舞台に立つの初めてだもん、緊張するよ……」

「そうだったな」


 朗先生が隣に立って舞台の上から客席を覗いた。その顔は微かに笑っている。

「先生は緊張しなかったんですか?」


 朗先生は腰に手を当てながら、向こうの壁までじっくり見回していた。