「柚子だけを、守りたいんだ」


 そういうと、朗先生が掴んでいた手を離し、そのまま私の頬にその手を置いた。こないだのデコチューを思い出して、赤くなってしまう。


「……平のことが好きなら……手を離すけど」


 何故、今堀木戸さんの名前を出すのか分からないけれど。少し眉間に皺を寄せて言う先生を、私は口で答える変わりに見つめた。目を逸らさずに。



 朗先生は暫く(しばらく)私の様子を見ていたが、やがてゆっくりと屈(かが)み……。










 ――キスをした。






 それは少し唇に触れただけの、とてもとても軽い、とても優しいキスだった。