「帰んの?雨まだ降ってるけど傘あんの?」



足音がすぐ隣で止まった。



「迎えにきて、もらうから」


「ふーん。ならいいけど」



はい。といって机に130円が並べられているのを眺める。


手に取った小銭はやけにあたたかくて、いつしか触れた創平の手のぬくもりを思い出してしまった。



「じゃあ、あたし帰るから」



そのぬくもりを取り払うように、スカートのポケットに小銭をいれる。


ろくにカバンのチャックも締め切らないまま、逃げるように教室の扉へと向かった。


それなのに、カバンの紐をつかんだ右手はつかまれていとも簡単に動きを止められる。




「おい、どうしたんだよ。なんか変だぞ」


「べつ、普通だけど?」


「普通じゃねーよ。なんだよ。言えよ」


「なんにもないってば。手離してよ」


「じゃあなんでこっち見ないの」



握られた右手が、さらに力を込められた。