握っていたはずの小銭は、音を立てた廊下を転がっていた。
「えっ…あかり?」
足元に転がった小銭から視線をあげると、背を向けていたはずの創平と目があった。
「あ、と」
無意識のうちに後ずさったあたしの足は、転がった小銭を踏む感触を感じていた。
あぁ、落ちた小銭を拾わなきゃ。
それよりもまず、何か反応しなくちゃ。
何か、声を出さなきゃ。
交わる視線が思考を混乱させる。
まずなにをすべきなのか、優先順位がつけられなかった。
こめかみに、汗がつたう。
「あの、あたし、帰るわ」
「は?」
「じゃ、また、ね」
転がる小銭を拾い上げることなく、そのままきた道を戻る。
あたしを呼ぶ声が後ろから聞こえたいたけど、振り返る代わりに足は歩みから駆け足へと変わっていた。

