階段までの廊下はやけに濡れていて、滑らないように慎重に足を運ぶ。
足元に意識を集中させていると、どこからか階段を駆け上がるような足音が聞こえた。
しかも、一人ではなさそう。
なんだろう?
疑問に思いながら階段につづく角を曲がると、足音の正体がわかった。
「うわ」
さっき教室で見かけたジャージを身にまとった男子生徒たちが、ものすごい勢いで階段を駆け上がっていた。
そういえば、雨が降ったら中練とか何とか言ってた気がするな…
首元や顔周りに汗をに駆らせるサッカー部員たちからは、離れているにもかかわらず熱気がすごかった。
ていうか、階段通りにくいわ。
集中している横を通るのが申し訳なく思えて、別の階段から1階へ降りることにした。
自動販売機まで遠くなってしまうけど仕方ない。
そもそもこんな雨の日に居残っているあたしのほうがサッカー部員たちにとってイレギュラーなんだろう。
いくら知らない人だからっていって、邪魔をしたいとは思わない。
廊下を来た方向へ戻ろうと階段を背にしたとき、
「あれ、林だ」
みんな必死に階段を駆け上っているだろうこの状況で、この場に似合わないのんきな声があたしを呼んだ。

