その瞬間、彼らの世界は一転した。
「あ?」
 一瞬の早業で、アレクシスに足払いされ、体の自由を失う。
 何が起きたのか理解できないまま、頭から石畳の床に落ちた。
 ごつ、という鈍い音が響いた。
「んぎゃあああああ!」
 後頭部を押さえて、少年が床を転げ回る。
「この程度の技でも、体勢を立て直せないんですか。鍛錬が足りないと言われないんですか?」
「てめぇ! やりやがったな」
 体格の大きい少年が、振り上げた拳をアレクシスの瞳が捕らえる。
 涼しげな碧眼に、火が灯った。
 獲物を狙う、獣の目。
「遅い」
 少年の拳は、外へと弾かれた。
 そのまま無防備になった懐へ滑り込み、鳩尾に一撃を加えた。うめく一瞬で足を払われ、少年はなすすべもなく後ろへと倒れてゆく。仰向けになった少年の首に、鞘に納めたままの短剣があてがわれた。
 静まりかえった、石積みの小部屋。
 あまりの光景に、少年達は身動き一つ取れない。蛇ににらまれた蛙のようだった。
 アレクシスが息を吸い込む。
 そして、言った。
「君たちに、騎士としての誇りはないのか!」
 部屋の中の空気が、びりびりと波を打った。
「相手から富を奪うなど、家畜にも劣る賊の振るまい。仮にも騎士を志す者ならば、その名に相応しく振る舞うべきだろう!」
 呻いていた少年が鼻で笑う。
「騎士なんてもん、なれるわけがねぇ。俺達は飼い殺される家畜と一緒だ」