アレクシスの提案に従い、行商人の裏道を抜ける。
 道に踏み入るギリギリの手前で一度野営し、日の昇ったところで一気に森を抜けると。
 テントを貼った夜のこと、馬車を囲むように騎士達は体を休めていた。そんな中、浅い眠りに落ちていたアレクシスは、アリス姫が馬車をそろーっと抜け出そうとしている所を目撃した。
「何をしてらっしゃるんですか」
「きゃん!」
 叱られた子供のように、跋の悪そうな表情をするアリス。
「きつねさんがいたーちょっとみるだけ」
「いけません、夜ですよ。馬車にお戻りを」
「もーつかれた。おかしもあきたのー」
「カーナヴォンにつけば珍しい品は沢山御座いますから」
「いまがいいー、アレクがつぁまえてきてー!」
 無茶を言う。
 幼い少女を馬車に押し戻し、アレクシスはため息を零して森の中へと入っていった。
 正直なところ、これは完全な自殺行為だ。
 危険だと理解していたが、姫との約束を破るわけにはいかない。光の見える範囲を少々探して、見つかりませんでしたよ、と姫に報告するつもりでいた。
 野営の炎が手のひらほどに小さくなって行く。
 そんな時だった。

 バキバキバキ、ゴシャッ。

 盛大な音がした。
 枝葉を折り、鳥でも空から墜落したのだろうかと、葉が舞い散る方向を伺い、近づいていく。獣道すらない茂みの中に、白い何かが見えた。
「……え?」