騎士団長は、年若い騎士に教えを説いた。
「我々を狙う者がいるとすれば、必ずや情報を掴んでくる。我々に出来ることは、追いかける者から逃れることだ。それには、どれほど手間だと感じても、工夫を重ねるしかない。我々がいかに身を隠していても、全く同じ行動をとり続ければ、必ずや先を越されてしまうだろう」
 ようやく。
 アレクシスには意味が分かった。
 全く同じ格好の一団が、全く同じ動きで町にたどり着けば、そういう行動をとっていると敵に知られたら最後、動きの先を見越されてしまう。
 それでは敵の思う壺なのだ。
 アレクシスたち同行している騎士団の役目は『王妃と姫の護衛』なのであって『経費を浮かせて保護対象を危険にさらす』ことではない。
 騎士団長がまるで自由気ままに宿を決め、道を変え、衣服すら頻繁に交換する指示を行う真意は、多少の手間や金品を引き替えにしてでも、目的を確実に全うすることだった。
「だから、ですか。そこまで考えてらっしゃったんですね」
「お前は聡いな、アレクシス。そう。我々が役目を見失ってはならない。見失う者が多いのは残念ながら事実だが、急に世の中を変えることはできない。ゆっくりでも確実に、意識を変えていけば、間違った道を選択することはない」

 正しい選択を出来るかどうかだ。

 そんなやりとりの数日後、馬車はなんの障害もなく、山を越え谷を渡り、カーナヴォン領に近づいていた。もうじき役目の半分が終わる。そう思っていた矢先のことだった。
 バーマスを過ぎて二日後、山の麓を移動していた際、崖崩れに遭遇した。
「駄目だなこれは。がれきの撤去に1日はかかる」
 戻るのも遠すぎるが、こんな危険な場所で立ち往生しているわけにもいかない。そんな時に、アレクシスは行商人が使う道があるという事を思い出した。度々、一人で歩く行商人が無惨な姿で発見されることがあるものの、馬車の速さとこの護衛数なら半日とかからずに抜けることが出来る。危険は低いと判断したのだ。
 半ば、北の森に踏みいるような形になるのが悩みの種ではあるのだが。
「魔女が出るかでないか、悩ましいところだな」
 考え続けても答えは出ない。
 騎士団長は決断を下した。