『こっちだってば』 『こっちにおいでよ』 『こっち』 『違う。こっち』 『ここにいるよ』 たくさんの声が重なるように あたしを呼ぶ。 「いやっ」 空間に響き続ける声に あたしは目を瞑り、 両耳を両手で塞いでしゃがみこんだ。 数分後。 ぴたりと声が止んだ。 ゆっくりと目を開け、 耳を塞いでいた手を耳から離した。 もういない。 もう、 わたしを呼ぶ声もしない。