「お~い、菜々、これ捨てておくんだ。」


 スラムの西外れにある小さなガバル食堂。


 10歳となる菜々が働いているのはそんな小さな店だった。


 短い黒髪に、汚れた頬、


 二ヶ月以上洗って頭はボサボサで、頭をかるくかくだけで、シラミが沸いて出る。


 汚れた服は、もはや元の色が何色なのかわからないぐらい、墨で黒くなっている。


 母は半年前に死んだ。


 空襲だった。戦争が殺したのだ。


 父は時々連絡してくるものの、もう何年も顔を見ていない。


 それでも、彼女は生きていかねばならなかった。


 家を失い、家族を失った彼女がたどり着いたのはスラム。


 仕事を見つけられただけでも、彼女は運がいいと言える。


 とりあえず、ココで仕事をしていれば食事に困ることは無い。


 たとえ・・・時々、店の主人に殴られようと・・・・・服は一着しかなくても・・・・お風呂には入れなくても・・・・・。


 それでも・・・・・・ここにいれば食事にはありつける・・・・。


 だから・・・・・・・・我慢するしかないんだ・・・・・・・・・・・・。