「あれー? 椿ちゃん、それに植木くん。何でこんなところにいるの」
突然降りかかった聞き覚えのある声に、私の心臓はドクンッと鈍い音を立てる。
ま、まずい! どうしたらいいのよ!
私が混乱するのも無理はない。聞き覚えのある声の持ち主は、紛れもなく尾行のターゲットの1人である笑佳だったのだから。
「……亮介、どうしよう」
「犬塚、心配は無用だ。俺達にはとっておきのあれがある」
「とっておき?」
亮介は、笑佳と、その少し後ろで立っている清水に聞こえないくらいに囁くと、自信満々にあるものをスッと私に差し出した。
“あるもの”とは、まさにさっき変装グッズとして利用しようとしていた、例のパーティーメガネ。
「おい、そこの者。さっき俺を植木くん等と呼んだな。だが、生憎俺はその植木くんという人ではない。そして彼女も椿ちゃんではないぞ」
スチャッとメガネを装着すると、奴は何の疑いもなく、ただ凛とした表情で他人を装った。
いやいや、無理があるでしょーが!

