「なーんーで、あんたは男のくせにこんなにキレイかな―。

女子よりキレイってのが、ものすっごくムカつく」


片方のほっぺただけつまんでいたのに。

今度は両方いっぺんにつまんで引っ張る。

おかげで口の両端が伸びに伸びて。

発声できなくて。


「ひだひよ、ひららひゃん」


日本語が日本語にならないよ、雲母ちゃん。


そんなボクのほっぺたを思いっきり伸ばした後で、雲母ちゃんはパッと手を離す。

離された後、ポケットから手鏡を見ると。

雲母ちゃんの引っ張った後が、そこにくっきりしっかり後を残していた。

じんじんとする。

けど。


「なに、ニマニマしてんのよ」


雲母ちゃんが眉を寄せてボクを睨む。


「えへへ」


だって、幸せなんだもん、ボク。

好きな人がボクに触れてくれるっていうだけで。

心がじんわり温かい。