「嫌よ!これは誰にも渡さないんだから!」

人の声がする。口調からして何やらモメているらしい。穏やかではないことは確かだ。

あれは……。

「梨里華嬢の部屋の前……誰かいるみたいだな」

男性が二人……警察?

俺は先程の美樹の言葉を思い出した。
そーいや、もうすぐ来るようなこと言っていたっけ。

「……ですが、お嬢様。その指輪は狙われておりまして」


「これは私が自分で守ります!分かったらさっさと向こうへお行きなさい」


一人の少女相手に、大の大人がこてんぱんにやられている姿を見るのは感じのよいものではない。
二人の男はいそいそと去って行く。

「さすがはお嬢様!」

パチパチパチ……。

「誰?」

一部始終を物影から見ていたのだが、あまりの迫力の凄さに拍手を送ってしまう、俺。

「怪しい者じゃないのでそんなに警戒しないで下さい。梨里華お嬢様」

「あなた……見たことない顔ね、新入り?」

使用人の顔は把握しているようだ。

「ええ、まぁ。ただのお掃除係ですケド」

「ふ──ん。あなた名前は?」

「黒鉄澪……じゃなかった!黒鉄千夜子と申します。みんなからは千夜って呼ばれてます」

彼女の瞳が俺に突き刺さる。すごく見られてる感じ……。
何か、まずいこととか言ってないよな。今までの言動を真面目に振り返ってみる。

「そう。ふふふ……かわいらしい名前」

「自分はこの名前が嫌いで。小さい時はよくバカにされてました。だから誉めてくれたのは梨里華様が初めてです!」

しばしの沈黙……。
な、何か俺、悪い事言ったか!?

「決めた!千夜、今からあなたは私の世話係よ」