「『怪盗バレン!再来!【月光の海岸】を盗む!』……か。すっかり有名人だね〜」

朝刊の一面を飾る大きな活字。最近では世間を賑わす大怪盗、ルパン三世襲来かとも言われていたりする。
まぁ、流石にそれは大袈裟だけどな。

「俺の手に掛かればこんなもんよ」

因みにここは都内某所にある、探偵事務所。
でもそれは表向きの話。
その実態は──闇に潜めく『怪盗』を生業としている。


『怪盗に盗めないものはこの世には一つ、人の心だけだ』


これはじいちゃんの格言だ。
俺は小さい頃からこの言葉をいやと言う程聞かされていた。だから大人になって、この仕事をすることになんの躊躇いもなかった。

俺の名前は黒鉄澪斗(くろがねれいと)、二十歳。

「あ!そうそう〜ハイ、これ」

そしてこいつがアシスタントをしている、黒鉄千夜子(くろがねちよこ)、[通称・千夜]十九歳……妹だったりする。そう、俺たちは兄妹なのだ。その証拠に二人の名前を繋げると『ちよこれいと』になる。なんとも短絡的な発想だ……。これもじいちゃんが名付けたらしいから、今更文句もつけようがない。

「チョコレート……?」

バックから取り出し、渡された小さい箱は綺麗にラッピングされていた。
しかも、ピンクや赤の包装紙。

「モテないお兄ちゃんに私とお母さんから共同で」

そっか……。
やっと理解できた。

「バレンタインデー……」

「その通り!」

あのなぁ、モテないは余計だっての!