今日、今、この瞬間。



カリッカリカッカカリ…



黒板とチョークが奏でるどーっでもいい音楽

を遠くに聞きながら

授業に集中している『フリ』をしている。





『フリ』なんかしないといけない原因はそこにいる伶美。



青空の席の左側にある窓の桟に腰掛け、

扇風機の首が回るのと同じように

単調に、ゆっくり、ゆっくりと

教室中に視線を這わせている。



これだけなら、何一つ問題は無い。

だが。

青空がいつものように妄想(空想…ダヨ?)に

入り込もうとすると、

伶美の大きすぎる存在感と全身を包む黒が目に止まり、

チャイムが鳴らないのに現実に引き戻される。


ついでに、伶美の深くて黒い瞳が

青空をつかんで離さなくなることも、多々ある。

見張られているようなこの感覚。



―ということで仕方なく始めた『フリ』なわけだ。



まあ、非日常について考えなくとも『今』は非日常である。





「ん?“な」

んだ?”につながりそうになる度視線をノートと黒板に戻す。

ほとんど日常と変わら…





「天宮。」

「え…あ、はい。」

「珍しい。授業聞いてるなあ。

コレ解いてみたら?」

少しニヤついているように見える先生の笑顔。

数学の時間=寝る時間。である青空にとってこれは…

「無理です。」

「書いて。」

ニヤついているようにしか見えない先生の笑顔。


教室の雰囲気がいつも以上にゆるんだ。