「あれ?お姉ちゃんいる。」
昨日のことを考えて、少しは小さな声で言った。
青空の独り言に続いて、翼が尋ねる。
「青空の姉ちゃんなんかあった?」
「何で?」
「だって、ほら。」
違う方向を向いて脱ぎすてられた靴を指した。
「いやあ、それはないなあ。
なんかあったんですよ、たぶん。」
否定しながら、肯定したのには気づかない。
青空は気にすることないって、と靴を脱いだ。
いつもは直接自分の部屋に行くのだが、
「ただいま」
ほんの少し、本当に少しだけ
翼の言葉が気になり、リビングのドアを開けた。
「…おかえり。」
ソファに真っ直ぐ座っている優姫。
「何か…あった?」
青空の心に一滴の不安がこぼれ落ちる。
「うん…あたしもびっくりして…」
「何が…?」
そう聞くのは怖かった。
「カズ君、事故で亡くなったって。」
目の前を不安たちが通り過ぎていくから。
黄色い帽子
真っ赤な血
とすっ
青空の手からかばんが落ちた。
「学校行く途中だったんだって。」
黄色い帽子
真っ赤な血
「信号待ってたら、車が急に…」
黄色い、帽子
「まだ、一年生だったのにね…」
青空はゆっくりと後ろを向く。
短く吹いた強い風
背後で聞こえた大きな音
電柱にぶつかり、
ボンネットがぐしゃぐしゃになった
黒い煙をあげる
白い自動車
小学生の黄色い帽子
アスファルトに染み込む
真っ赤な血――
青空はゆっくり、ゆっくり階段を上った。
昨日のことを考えて、少しは小さな声で言った。
青空の独り言に続いて、翼が尋ねる。
「青空の姉ちゃんなんかあった?」
「何で?」
「だって、ほら。」
違う方向を向いて脱ぎすてられた靴を指した。
「いやあ、それはないなあ。
なんかあったんですよ、たぶん。」
否定しながら、肯定したのには気づかない。
青空は気にすることないって、と靴を脱いだ。
いつもは直接自分の部屋に行くのだが、
「ただいま」
ほんの少し、本当に少しだけ
翼の言葉が気になり、リビングのドアを開けた。
「…おかえり。」
ソファに真っ直ぐ座っている優姫。
「何か…あった?」
青空の心に一滴の不安がこぼれ落ちる。
「うん…あたしもびっくりして…」
「何が…?」
そう聞くのは怖かった。
「カズ君、事故で亡くなったって。」
目の前を不安たちが通り過ぎていくから。
黄色い帽子
真っ赤な血
とすっ
青空の手からかばんが落ちた。
「学校行く途中だったんだって。」
黄色い帽子
真っ赤な血
「信号待ってたら、車が急に…」
黄色い、帽子
「まだ、一年生だったのにね…」
青空はゆっくりと後ろを向く。
短く吹いた強い風
背後で聞こえた大きな音
電柱にぶつかり、
ボンネットがぐしゃぐしゃになった
黒い煙をあげる
白い自動車
小学生の黄色い帽子
アスファルトに染み込む
真っ赤な血――
青空はゆっくり、ゆっくり階段を上った。


