本当に何も起きなかった。



でも――

彼女はきつそうなままだった。

信号で止まれば、そっと電柱に寄り掛かり、

ふらふらとした足どりで深呼吸を繰り返す。

どうしてこんな状態なのか、

きいても答えないだろうし、

青空にできることは何もなかった。




青空の白い家が見えると

少女が舌打ちをした

「…何?」

「あいつが戻ってきてる。」

「あいつ?…ああ、あの人か。

何してたんだろ?」

「知るか」

この会話の後、彼女からきつそうな感じが全くなくなった。








昨日は通らなかった玄関から家に入り、階段をのぼる。


とん、とん、とん


ガチャ

「早いな。おかえり」

彼は、積み重ねられた本たちの隣で

あぐらをかき、マンガを片手に顔をあげた。


青空は本の数をざっと数えて、目を丸くした。

「それ、全部読んだんですか?」

「まーな。けど、お前趣味悪いなー

ミステリーとグロいファンタジーばっかりじゃん。

そのうえ、全部子供向け。
少しは成長しろよ。」

目線がまたマンガの上に戻った。



「どこに行ってやがった…」

「片づけ。」

彼女のほうは見ないまま、一言で受け流す。

「お前……」

「…そんなすぐ怒んなって。

それが、必要なことぐらい…」

やっとマンガから顔をあげ、彼女のほうを向く。


途中で言葉を止め、少女の体をゆっくり見た。

そして、何も言わずに立ち上がった。