「おいお前!何のつもりだ!」

青空は何も言わなかった。

いつもなら絶対立ち止まる赤信号を全速力で走っていった。

疲れることはないのだろうが、

彼女の走る速さは青空よりも遅かった。

「ふざけんな!さっき言っただろ、気をつけろって!」


みるみる小さくなっていく青空の後ろ姿。

「おい!聞け……」

青空の姿が消えた。

どこかを曲がってしまったらしい。

「クソっ…これだから人間はっ」



―嫌いなの――


彼女の頭の中で誰かがそう言った。

「!」

辺りを見回した。

右を向いても左を向いても、

後ろを振り返っても誰もいない。

目を閉じて耳を澄ました。

何も聞こえない。


目を開け、足を踏み出した。




あたしは――だから―




彼女の頭の中に『海』が広がった。





――は嫌なの―

あたしが――




頭の中の自分は悲しそうな顔の少女に何か言った。




―ごめんね、ありがとう





少女は悲しそうなままだった。


少女は、また何か言った。



彼女の目の前がじわじわと濁っていった。

「ごめんなさい…」

口が勝手にそう言った。


なんだかとっても苦しくなって、頬の上を何かがなでた。

次から次へと涙が流れ

急にすべて途絶えた。



彼女は何もなかったように歩き出した。