それなのに――
その1枚の絵の中に鮮やかに煌めく人がいた。
灰色の世界が一気に色を帯びる。
カーテンを捲るかのように
シールをはがすかのように
一気に灰色が瑠璃色の世界へと変わる。
眩しいほどの青。
空も
海も
全てが深い青い色に変化する。
その中で
彼女はひときわ輝いていた。
波を蹴る。
水面を掬う。
長い黒髪が宙を舞い
白い肌が煌めく水をはじく。
ドキンッ。
胸が激しく音を立てた。
彼女を失ったあの瞬間から
時を止めたはずのオレの心臓が
ドクドクと一気に血を体中へと送りこもうと動きだす。
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