大きな栗色の瞳に向かってオレは笑みを返す。
「どうぞ」
オレの返事に襖が大きく開かれ、長身の彼がゆっくりと入ってくる。
Tシャツにハーパン姿の彼は、オレの後ろに胡坐をかいた。
「先生初日はどうだったの?」
興味津々と言うように身を乗り出して彼は聞いてきた。
「ま、いろいろ……ありそうかなぁ」
濁すように言うオレに、彼は「そっか」と呟いた。
「楽しく過ごせそう?」
栗色の瞳が射抜くようにオレを見る。
その視線にオレは肩をすくめてみせた。
「オレにその質問するの、おまえだけだよ」
楽しく過ごす。
彼女を失ってから、一度も考えたことのないことを……けれど、彼だけは必ず聞くのだ。
妹尾拓実(せのおたくみ)。
彼女の弟である彼だけは――



