「どうぞ、ゆっくりしていって。
お茶、持ってくるから」
そう言っておばさんはオレを仏間に案内し、台所へと戻っていった。
和室の襖をゆっくりと開ける。
いつもの香り。
線香と花の匂いで溢れた部屋にオレはゆっくりと足を踏み入れる。
彼女が亡くなったその後
この部屋は彼女の好きだった花で常に溢れている。
彼女の家を訪れるとき
オレも欠かさずに花を携える。
仏壇の前に座る。
彼女の遺影。
笑った顔。
まだ発病前。
まだ病を知らない頃の輝いていた彼女の笑顔。
オレが守りたかった笑顔。
なのに……オレは守れず
ただ失った。
「今日は……報告に来たんだよ、アキ」
線香に火をともし、供える。
手は合わせず、ただ彼女の遺影に向き合う。
返事はない。
いつものこと……いつものことだ。



